11/16、第5回ゼミ開催

全8回の評価ゼミ。
いよいよ後半に入った11/16の第5回ゼミは、P3 art and environment エグゼクティブ・ディレクター/アサヒ・アート・フェスティバル(AAF)事務局長の芹沢高志さんをゲストにお迎えしました。テーマは、「ピア・モニタリング」=同種の活動を行う関係者による相互評価です。


さて、なぜこの評価ゼミで「ピア・モニタリング」を取り上げたかといいますと…。

もう10年近く前になりますが、ロビーコンサートを開催していたある企業のメセナ担当者が、「ベンチマーク、ベンチマーク!」といいながら、スタッフを引き連れて、他社のロビコンを見学していたことがありました。「なるほど、メセナでもベンチマーキング(wikipedia)か、企業らしい」と思ったのですが、同じ頃、「メセナ留学」という、他社のメセナの現場運営に1日参加する試みに強い興味を示す担当者さんもでてきたりしました。メセナ関係の会議のたびに、超ライバル企業同士の担当者らが悩みを真剣に話し合っている様子にも驚きました。メセナ業界では、同種の活動をする人同士が最高の助言者であり、理解者、よき相談相手、時に厳しくも貴重な忠告者なのだということが自分の中でみえてきました。

これを、どうにか企業メセナ担当者が長年悩んできた「評価の仕組み作り」にいかせないかと考えていたところ、「ピア・モニタリング」というものがあることを知りました。メセナの調査でお世話になっていた当時三和総研の太下義之さんも、確か「ピア・レビュー」という言葉で、メセナ評価についてアドバイスをくださったことがありました。 こうした<仲間による評価>は、メセナ含む非営利セクターの活動、特に活動をよりよいものにするための検証手段としては有効ではないだろうかという、直感のようなものがありました。


私自身は今もなかなかこれを仕組み化できずにいるのですが、2003年にアサヒビールのメセナ評価を取材した際に、協働相手であるNPOに「自社のメセナについて」の簡単なアンケートを提出してもらっていることを知りました。今でこそ、企業のCSR活動ではステークホルダーの意見を聞くためにアンケートを取ることは常識の域に入っていますが、当時の特にメセナ活動においては珍しいことでした。「ピア・モニタリング」の一種だと注目していたところ、アサヒビールはその後NPOとのパートナーシップ事業をメセナの主軸に据え、さらに本格的にAAFを展開するようになったので、その「NPOアンケート」も“本格的”になってきました。


プロジェクトをいかに評価し、それをどのように活用していくのか等を考える「ひぐれ学校」 という場をAAFに設けるなど、AAF初期段階から評価について、問題意識がありました。外から見ていると、とにかく愚直に、(いい意味で)しつこいほどに、アートプロジェクトの評価を試行錯誤しているように見えました。評価という言葉をやめて「検証」にしたり(第1回ゼミの付箋ワークショップで評価という言葉について訊ねたのは、AAFでの議論もあったからです)。そして、格闘している評価の中味は、まさに「ピア・モニタリング」といえるものでした。


日々、多くのアートプロジェクトに携わる方と話をしたり、JCDN(ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク)やアートNPOリンクのようなネットワーク型NPOが次々と生まれてきたのを見るにつけ、アート業界も「同種の活動をする人同士が最高の助言者であり、理解者、よき相談相手。時に厳しくも貴重な忠告者」 だと感じます。アートプロジェクトの評価を考えるに当たっては、こうした「同士・同志」の役割も評価プロセスに組み込んでいくといいのではと思い、(自分がうまくメセナで仕組化できず気になっていることもあって)、ゼミのテーマのひとつに設定しました。もちろん講師は、「AAF評価格闘の歴史」を語っていただける芹沢さんに、と思ったのでした。 なぜそこまで、そして何を話し合ってきたのか、本ゼミとしてうかがえたらと思いました。


芹沢さんのレクチャーの内容は、ゼミ生のレポートに譲りますが、印象的だった芹沢さんからの投げかけを1つ。 「仲間が行う評価の難しさもある。当事者の、当事者による、当事者のための評価も重要」――なるほどです。 ピア・モニタリングを考えるにあたって、「当事者」というキーワードもいただきました。


芹沢さん、お忙しい中ありがとうございました!
終了後は、近くの中華やさんで芹沢さんと楽しく交流しました。


【第5回評価ゼミ】
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■日時:2010年11月16日(火)19-21時
■会場:Tokyo Artpoint Project Room 302(アーツ千代田3331内)
■講師:芹沢高志さん(P3 art and environment エグゼクティブ・ディレクター/AAF事務局長)
■内容:「アートプロジェクトの評価:ピア・モニタリング編」
関係者が相互に活動を検証しあう評価方法について、事例に基づいて学ぶ。 
    ・19:00~20:40 芹沢さんレクチャー
    ・20:40~21:00 質疑・応答、ディスカッション
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※ピア【peer】…同等、同格の人、対等者、仲間、同僚、同級生、クラスメート、友人、同輩、同業者

■講師プロフィール
芹沢高志 (せりざわ たかし) 
P3 art and environment エグゼクティブ・ディレクター/AAF事務局長 

1951年東京生まれ。神戸大学数学科、横浜国立大学建築学科を卒業後、(株)リジオナル・プランニング・チームで生態学的土地利用計画の研究に従事。その後、東京・四谷の禅寺、東長寺の新伽藍建設計画に参加したことから、89年にP3 art and environment (http://www.p3.org/) を開設。99年までは東長寺境内地下の講堂をベースに、その後は場所を特定せずに、さまざまなアート、環境関係のプロジェクトを展開している。
帯広競馬場で開かれたとかち国際現代アート展『デメーテル』の総合ディレクター(2002年)、アサヒ・アート・フェスティバル事務局長(2002年~)、横浜トリエンナーレ2005キュレーター、別府現代芸術フェスティバル2009『混浴温泉世界』総合ディレクター。慶応大学理工学部非常勤講師(2001年~2006年、建築論)。著書に『この惑星を遊動する』(岩波書店)、『月面からの眺め』(毎日新聞社)、訳書にバックミンスター・フラー『宇宙船地球号操縦マニュアル』(ちくま学芸文庫)、エリッヒ・ヤンツ『自己組織化する宇宙』(工作舎、内田美恵との共訳)など。


■配布資料
・レジュメ「アートプロジェクトの評価:ピア・モニタリング編」(芹沢高志)
・「アサヒ・アート・フェスティバル2005 評価報告書」
・AAF検証シート
・アサヒ・アート・フェスティバル2010 リーフレット
・アサヒ・アート・フェスティバル2010 報告会(11/20-21)案内


■参考情報
・「アサヒ・アート・フェスティバル2010」 http://www.asahi-artfes.net/  


【若林】

1 件のコメント:

  1. RA佐藤さんの「おさらいツイート」、ここに保管

    ・芹沢さんの回は、メインにはアサヒ・アート・フェスティバル(AAF)での「評価」の変遷となりました。時を経て、AAFのミッションも変化し、AAF2006には「評価」から「検証」という言葉へ統一されていったそうです。

    ・当事者同士が検証をし合う、ピアモニタリングを行なうAAF。同じような問題を抱えていることを確認するディスカッションとなったそうです。

    ・評価→検証と言葉が変化したことについて。日本型の評価は限られたパイを巡って、それを取り合う当事者たちを落としていくイメージがあるからか。

    ・AAFの検証の具体的な手法も紹介されましたが、悩ましいところとして(モニタリングを組み合わせた際の)ヒアリングのタイミングや、オーラルからテキストに起こすときの(個人間の)バラつきなどが挙げられました。

    .そして、さいごの「アートプロジェクトにおいて果たして評価とは可能なのか」という問いかけ。これまでのゼミでも、同様の問題提起がされてきましたが、芹沢さんのゼミでは一歩踏み込んだ話があったように思います。

    ・たとえば「計画なくして評価なし」・・・だけど「アートは計画できるのか」(プロジェクトは評価できるとしても)といったことや、

    .「(実用的な)プロジェクトとは、プロジェクト・ポテンシャル(新たなプロジェクトを生み出す潜在力)を生成するもの」と考えると、そのクリエイティブなプロセスを評価していく手法が必要なのではないか、といったこと、

    .そうすると「評価のための評価に陥らない」「当事者の、当事者による、当事者のための評価」が必要なのではないか。戦略的に問いかけを明確にしていく(当事者の意識を明確にしていく)評価が必要なのではないか・・・

    .ゼミでは明確な回答はありませんでしたが、今後ゼミで考えていくための大きな足がかりをいただいたように感じました。

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