11/16、第5回ゼミ開催

全8回の評価ゼミ。
いよいよ後半に入った11/16の第5回ゼミは、P3 art and environment エグゼクティブ・ディレクター/アサヒ・アート・フェスティバル(AAF)事務局長の芹沢高志さんをゲストにお迎えしました。テーマは、「ピア・モニタリング」=同種の活動を行う関係者による相互評価です。


さて、なぜこの評価ゼミで「ピア・モニタリング」を取り上げたかといいますと…。

もう10年近く前になりますが、ロビーコンサートを開催していたある企業のメセナ担当者が、「ベンチマーク、ベンチマーク!」といいながら、スタッフを引き連れて、他社のロビコンを見学していたことがありました。「なるほど、メセナでもベンチマーキング(wikipedia)か、企業らしい」と思ったのですが、同じ頃、「メセナ留学」という、他社のメセナの現場運営に1日参加する試みに強い興味を示す担当者さんもでてきたりしました。メセナ関係の会議のたびに、超ライバル企業同士の担当者らが悩みを真剣に話し合っている様子にも驚きました。メセナ業界では、同種の活動をする人同士が最高の助言者であり、理解者、よき相談相手、時に厳しくも貴重な忠告者なのだということが自分の中でみえてきました。

これを、どうにか企業メセナ担当者が長年悩んできた「評価の仕組み作り」にいかせないかと考えていたところ、「ピア・モニタリング」というものがあることを知りました。メセナの調査でお世話になっていた当時三和総研の太下義之さんも、確か「ピア・レビュー」という言葉で、メセナ評価についてアドバイスをくださったことがありました。 こうした<仲間による評価>は、メセナ含む非営利セクターの活動、特に活動をよりよいものにするための検証手段としては有効ではないだろうかという、直感のようなものがありました。


私自身は今もなかなかこれを仕組み化できずにいるのですが、2003年にアサヒビールのメセナ評価を取材した際に、協働相手であるNPOに「自社のメセナについて」の簡単なアンケートを提出してもらっていることを知りました。今でこそ、企業のCSR活動ではステークホルダーの意見を聞くためにアンケートを取ることは常識の域に入っていますが、当時の特にメセナ活動においては珍しいことでした。「ピア・モニタリング」の一種だと注目していたところ、アサヒビールはその後NPOとのパートナーシップ事業をメセナの主軸に据え、さらに本格的にAAFを展開するようになったので、その「NPOアンケート」も“本格的”になってきました。


プロジェクトをいかに評価し、それをどのように活用していくのか等を考える「ひぐれ学校」 という場をAAFに設けるなど、AAF初期段階から評価について、問題意識がありました。外から見ていると、とにかく愚直に、(いい意味で)しつこいほどに、アートプロジェクトの評価を試行錯誤しているように見えました。評価という言葉をやめて「検証」にしたり(第1回ゼミの付箋ワークショップで評価という言葉について訊ねたのは、AAFでの議論もあったからです)。そして、格闘している評価の中味は、まさに「ピア・モニタリング」といえるものでした。


日々、多くのアートプロジェクトに携わる方と話をしたり、JCDN(ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク)やアートNPOリンクのようなネットワーク型NPOが次々と生まれてきたのを見るにつけ、アート業界も「同種の活動をする人同士が最高の助言者であり、理解者、よき相談相手。時に厳しくも貴重な忠告者」 だと感じます。アートプロジェクトの評価を考えるに当たっては、こうした「同士・同志」の役割も評価プロセスに組み込んでいくといいのではと思い、(自分がうまくメセナで仕組化できず気になっていることもあって)、ゼミのテーマのひとつに設定しました。もちろん講師は、「AAF評価格闘の歴史」を語っていただける芹沢さんに、と思ったのでした。 なぜそこまで、そして何を話し合ってきたのか、本ゼミとしてうかがえたらと思いました。


芹沢さんのレクチャーの内容は、ゼミ生のレポートに譲りますが、印象的だった芹沢さんからの投げかけを1つ。 「仲間が行う評価の難しさもある。当事者の、当事者による、当事者のための評価も重要」――なるほどです。 ピア・モニタリングを考えるにあたって、「当事者」というキーワードもいただきました。


芹沢さん、お忙しい中ありがとうございました!
終了後は、近くの中華やさんで芹沢さんと楽しく交流しました。


【第5回評価ゼミ】
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■日時:2010年11月16日(火)19-21時
■会場:Tokyo Artpoint Project Room 302(アーツ千代田3331内)
■講師:芹沢高志さん(P3 art and environment エグゼクティブ・ディレクター/AAF事務局長)
■内容:「アートプロジェクトの評価:ピア・モニタリング編」
関係者が相互に活動を検証しあう評価方法について、事例に基づいて学ぶ。 
    ・19:00~20:40 芹沢さんレクチャー
    ・20:40~21:00 質疑・応答、ディスカッション
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※ピア【peer】…同等、同格の人、対等者、仲間、同僚、同級生、クラスメート、友人、同輩、同業者

■講師プロフィール
芹沢高志 (せりざわ たかし) 
P3 art and environment エグゼクティブ・ディレクター/AAF事務局長 

1951年東京生まれ。神戸大学数学科、横浜国立大学建築学科を卒業後、(株)リジオナル・プランニング・チームで生態学的土地利用計画の研究に従事。その後、東京・四谷の禅寺、東長寺の新伽藍建設計画に参加したことから、89年にP3 art and environment (http://www.p3.org/) を開設。99年までは東長寺境内地下の講堂をベースに、その後は場所を特定せずに、さまざまなアート、環境関係のプロジェクトを展開している。
帯広競馬場で開かれたとかち国際現代アート展『デメーテル』の総合ディレクター(2002年)、アサヒ・アート・フェスティバル事務局長(2002年~)、横浜トリエンナーレ2005キュレーター、別府現代芸術フェスティバル2009『混浴温泉世界』総合ディレクター。慶応大学理工学部非常勤講師(2001年~2006年、建築論)。著書に『この惑星を遊動する』(岩波書店)、『月面からの眺め』(毎日新聞社)、訳書にバックミンスター・フラー『宇宙船地球号操縦マニュアル』(ちくま学芸文庫)、エリッヒ・ヤンツ『自己組織化する宇宙』(工作舎、内田美恵との共訳)など。


■配布資料
・レジュメ「アートプロジェクトの評価:ピア・モニタリング編」(芹沢高志)
・「アサヒ・アート・フェスティバル2005 評価報告書」
・AAF検証シート
・アサヒ・アート・フェスティバル2010 リーフレット
・アサヒ・アート・フェスティバル2010 報告会(11/20-21)案内


■参考情報
・「アサヒ・アート・フェスティバル2010」 http://www.asahi-artfes.net/  


【若林】

11/16第5回ゼミの参考資料(事前連絡)

初期のゼミ写真をみると、皆さん半袖姿。
あれから夏が過ぎ、秋も深まりゆき、いよいよゼミも後半戦です。

以下、第5回評価ゼミの事前連絡です。
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■日時:2010年11月16日(火)19-21時
■会場:Tokyo Artpoint Project Room 302(アーツ千代田3331内)
■講師:P3 art and environment エグゼクティブ・ディレクター/AAF事務局長 芹沢高志さん
■内容:「アートプロジェクトの評価:ピア・モニタリング編」
関係者が相互に活動を検証しあう評価方法について、事例に基づいて学びます。 
    ・19:00~20:30 芹沢さんレクチャー
    ・20:30~21:00 質疑・応答、ディスカッション
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大枠のテーマは、ピアモニタリング=同種の活動を行う関係者の相互評価ですが、AAF(アサヒ・アート・フェスティバル)の検証事業をひとつの事例に、評価についてさまざまな角度からお話いただく予定です。
 ・AAFの紹介
 ・AAFにおける評価導入の変遷
 ・AAFの現状における評価手法
 ・評価について(一般論)
 ・予測/計画/目標/評価といった概念について、線形予測とアートとの関係性
  (従来型の評価がいかにアートプロジェクトには有効でないか) 他

★参考情報
・「アサヒ・アート・フェスティバル2010」 http://www.asahi-artfes.net/ 

★当日配布資料
・芹沢さんレジュメ
・「AAF2005 評価報告書」
アサヒ・アート・フェスティバル2010 リーフレット
アサヒ・アート・フェスティバル2010 報告会(11/20-21)案内





















※ セルフリサーチ用資料は、以下を配布します。
・「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2009」総括報告書(本編・資料編)



【若林】

文化庁「文化政策部会」で議論している「評価」のこと

第4回ゼミの柴沼さんのお話を受け、行政、特に文化庁の評価について、もう少し共有しておきたいと思います。 文化庁に対して政策提言する方、文化庁から助成金を得ている/これから申請しようとしている団体、今後パブリックコメントを出そうと思っている方などには、おおいに関係ある話です。

                  *        *       *

9/29に開催された文化庁の「文化審議会 第8期 第11回文化政策部会」 の議題の一つは、「政策目的・達成目標の在り方について」。 配布資料が公開されています。

○資料4-1: 文部科学省(文化庁)における文化行政の政策評価(実績評価)体系(PDF:116KB)
○資料4-2: 文部科学省における事業評価(平成23年度対象事業の例)(抜粋)(PDF:284KB)
○資料5: 文化政策の評価について【吉本委員提出資料】 (PDF:152KB)


来年度の文化庁予算の概算要求には、「日本版アーツカウンシルの試行的運用」が掲げられており、PDCAサイクルを回す、つまり「評価」を行うことが明記されています。
どのような評価方法が効果的か、文化政策部会で今後も議論されていくのでしょうか。本ゼミとしてもフォローしていきたいと思います。

上記配布資料の「5番」、ニッセイ基礎研究所の吉本光宏さんがレクチャーされた際の資料は、大変参考になります!ぜひご一読を。



【若林】

行政の政策評価~文化庁の評価の現状

第4回評価ゼミで、講師の柴沼雄一朗さん(総務省行政評価局)から、文化庁の事業についても相当なボリュームがある細かな評価結果がまとめられている、調べれば確認可能とのお話がありました。
何がどのように評価されているのでしょうか?その手法は? 文科省や文化庁の行政評価の現状は、しっかりフォローしておきたいところ。 下記に、いくつか事例をまとめます。

■文部科学省の実施する政策評価 (文科省サイト)
http://www.mext.go.jp/a_menu/hyouka/index.htm 
文科省の政策評価の方針(柴沼さんのお話にあった国の方針に沿った内容)や、「実績評価書」(H13年~)、「事業評価書(新規・継続事業)」(H14年度~)、「規制に関する評価書」(H16年~)、「総合評価書」などが公開されています。独立行政法人評価の結果も掲載(これは以下で別途説明)。

例えば…昨年度(2009年)新規事業として始まった「アートマネジメント重点支援事業」がどのような展望のもと、どのように事前評価され、公表されていたか、みてみましょう。

⇒「文部科学省事業評価書―平成21年度新規・拡充等―」 の中で、「平成21年度 文部科学省新規・拡充事業 」の「政策目標12 文化による心豊かな社会の実現」という枠の中で、新規事業として事前評価されています→ 「97.アートマネジメント重点支援事業(新規)【達成目標12-1-2】」

点検項目は、下記の通り。
◎事業の概要等
 1.事業目的
 2.事業に至る経緯・今までの実績
 3.事業概要
 4.指標と目標 ([指標] [目標] [効果の把握方法])
◎事業の事前評価結果
 A.19年度実績評価結果との関係
 B.必要性の観点
   1.事業の必要性
   2.行政・国の関与の必要性(官民、国と地方の役割分担等)
   3.関連施策との関係 (①主な関連施策 施策目標12−1 、②関連施策との関係)
   4.関係する施政方針演説、審議会の答申等
 C.有効性の観点
   1.目標の達成見込み
   2.上位目標のために必要な効果が得られるか
 D.効率性の観点
   1.インプット
   2.アウトプット
   3.事業スキームの効率性
   4.代替手段との比較
 E.公平性の観点
 F.優先性の観点
 G.総括評価と反映方針
◎指摘事項と対応方針 (【指摘事項】 【指摘に対する対応方針】 )

※気になるのは、冒頭に「事業開始年度:平成21年度、事業達成年度:平成25年度」とありますが、この新規事業、1年で終わってしまったんですよね…。せっかく評価方針や目標達成度の評価指標を定めても、事業がたった1年でなくなってしまったら、事前評価の時間や労力がもったいない。 ところで、このように「事業をやめると決める/決めた時の評価」については公表されていないようです。


■文部科学省 行政事業レビュー(文科省サイト)
http://www.mext.go.jp/a_menu/kouritsu/detail/1293397.htm 
予算の支出先や使途の実態を把握し、改善の余地がないか事後点検を行う「行政事業レビュー」を、文科省も実施。レビュー対象事業の事後点検内容=「レビューシート」を公表しています。
次年度概算要求への点検結果の反映状況も公表。


■文化庁レビューシート (文科省サイト)
http://www.mext.go.jp/a_menu/kouritsu/detail/1295386.htm 
レビュー対象事業の「レビューシート」を個別に公開。 点検項目は次の通り:
1)予算事業名
2)事業開始年度
3)レビュー作成責任者
4)担当部長局
5)担当課室
6)会計区分
7)上位政策
8)根拠法令(具体的条項)
9)関係する計画、通知等
10)事業の目的(目指す姿)
11)事業概要
12)実施状況
13)予算の状況
14)自己点検:支出先・使途の把握水準・状況/見直しの余地
15)予算監視・効率化チームの所見
16)補記
17)資金の流れ(資金の受け取 り先が何を行っているかについて補足)
18)費目・使途(「資金の流れ」においてブロックごとに最大の金額が支出されている者について記載。使途と費目の双方で実情が分かるように記載)
19)「複数支出先ブロック」の支出先一覧(上位10機関)

ちなみに、レビュー対象となっている事業には、以下のようなものがあります(一部抜粋)。
0453 メディア芸術振興総合プログラム
0455 新進芸術家の養成・発表への支援
0456 芸術団体等が行う養成・発表機会の充実
0459 「文化芸術による創造のまち」支援事業
0460 地域人材の活用による文化活動支援事業
0461 地域文化活動活性化推進事業
0465 日本芸術院会員年金の支給等に必要な経費
0466 独立行政法人国立美術館運営費交付金に必要な経費
0469 独立行政法人日本芸術文化振興会施設整備に必要な経費
0470 文化財の維持管理等の推進
0471 文化財保護対策の検討等
0472 美術館・博物館活動の充実
0473 鑑賞・体験機会等充実のための事業推進
0491 文化政策企画立案
0492 文化ボランティア活動推進事業
0493 文化政策情報システムの整備


■独立行政法人の評価
http://www.mext.go.jp/a_menu/hyouka/d_kekka/main10_a11.htm 
各年度毎に、業務実績に係る評価が夏ごろ発表される(例:「平成21年度に係る業務の実績に関する評価及び中期目標に係る業務の実績に関する評価について」) 。
実際の評価結果は、法人ごとにまとめられています。文科省関係(文化系)の独法「日本芸術文化振興会」の評価も公表されています。
⇒「独立行政法人日本芸術文化振興会の平成21年度に係る業務の実績に関する評価」(PDF:1499KB) 。

※全部で86ページと膨大。これは事前の指標設定にも、評価そのものにも相当な労力がかかります。たとえ一般に公表されても、読むのだけで一苦労。行政が事業評価結果を公表することの最大の効果のひとつ=「議論の喚起」には繋がりにくいように思えます。

【最後に番外編】
■事業仕分け結果・国民から寄せられた意見と今後の取組方針について
行政刷新会議の事業仕分けの対象となった文科省の事業についてパブコメを募集。その結果を受けて発表した今後の取り組み方針。


【若林】

レポート|第4回「行政の政策評価」

ゼミ生/小林寛斉

Ⅰ.柴沼さんのお話の内容

第4回の評価ゼミでは総務省行政評価局の柴沼雄一朗さんを講師に迎えました。 これまでの二人の講師はアート関連業界からでしたが、今回は現役国家公務員で、かつご所属もアートとは距離の遠い部署。アートに関するゼミにおいては異色の講師が、普段あまり馴染みのない国の政策評価制度について親切、丁寧に説明してくださいました。





1.行政評価制度導入の背景
かつて行政組織の最優先事項は、①新しい法律を作る、②新しい予算を通すことの二点であった。しかし、①法律を成立させることまでが関心事で、どう執行されるかが省みられない、②(国であれば)財務省主計局に説明して予算を通すが、実際にどう使われたかの検証が乏しい、などの批判を受けることになった。90年代、厳しい財政状況や右肩上がりの成長を前提としたそれまでのシステムが限界を迎え、行政にも効率が求められるようになった。そこで、三重県を皮切りに自治体でまず評価制度が取り入れられた。国に導入されたのは、橋本行革の時である。


2.政策評価制度の特徴
各省庁による自己評価が基本である。その理由は、①作った法律、とった予算についてきちんと省みるようにするため、②情報を網羅的に把握しているため、重要な情報が出やすいため、である。自己評価では各省庁の「お手盛り」になってしまうのではないかという批判がある。その批判に対しては次の三つの対策が取られている。①客観的になるような基準を設ける(例;数値目標)、②第三者の目を入れる(例;有識者の評価)、③プロセスを透明化する(例;ダム建設にあたっての根拠の試算方法などを公表する)。


3.政策評価の方式
評価方式は三種類ある。①事業評価、②実績評価、③総合評価。事業評価は細かい単位、実績評価・総合評価は大きな括りでそれぞれ評価する。目標はスローガン的なものではなく、具体的に定めることが重要である。「いつまでに」 といった期限も設ける。


4.今後の課題
柴沼さんの個人的な所感。より良い評価をするための今後の課題。

自己評価と第三者評価のバランス
自己評価は網羅的に情報を把握している主体が評価するという利点がある一方、不利な情報が出づらいという欠点がある。他方、第三者評価ではある程度の客観性は確保できる利点があるが、情報を網羅的に把握するのが困難で、部分的な面で評価することになるという欠点がある。

予算との関連
予算には限度額という一定の制約がある中(相対的)、評価の客観性(絶対的)をどのように確保、反映するのか。

ミクロなレベルの評価とマクロなレベルの評価
ミクロなレベルの評価は数字など客観化しやすく予算と結びつけやすい。しかし、マクロなレベルの評価であると、戦略など政策論争的な抽象的な議論になりがちであり難しい。


5.質疑応答
※一問一答ではなく、柴沼さんが答えた内容をいくつかの項にまとめました。

評価制度の狙い
今までの行政は一度決めたことを中止することは困難であった。しかし、 評価制度があることで、事後検証をする材料を提供する。 それによって行政も事業の見直しや方向転換ができるようになった。

事業仕分けについて
事業仕分けでは少ない資料で分かりやすい説明が求められる。「一般人の理解の範囲内」で議論をする。「専門性」を背景にして材料を積み上げている行政評価局からすると、かなり対極な世界である。陥りがちなのは全体像から一部だけを切り取って判断しがちなことだが、一般人の感覚で大胆に結論を下すことは、それはそれで一つの評価である。行政にショックを与える仕組みとして機能しており、また事業自体に関心を集めるという点でも成功していると思う。

アートを評価するにあたって
何を評価するにしても出発点は目標を設定すること。目標を具体化していかなければ評価できない。価値観と価値観の評価はできない。アートを評価するに当たっても目標を具体化する必要がある。例えばリサイクルをテーマにした芸術活動をした場合。芸術では二流三流でも、ものすごくテーマ性があって、来た者全員がその活動に強い印象を受けて帰ったとする。その場合、仮にリサイクルの普及という点で判断すれば良い評価になる。一方、芸術性で判断したらまた違う評価になる。

評価のコストについて
評価自体にコストがかかる。公共事業の評価であれば、研究会を開き、何回も議論し、評価する際の指標を決めて計算をする。非常に手間暇がかかる。そこでコストに見合うような合理的な評価について考える必要がある。実際には、たくさんの評価対象がある中でターゲットを絞り重点的に取り組んでいる。そのようにして深く掘り下げていかないとなかなか問題点が見えてこないこともある。





Ⅱ.感想

柴沼さんがしきりに「議論」という言葉を使っていらっしゃったのが印象に残りました。「議論」を始めるためにはある程度客観的な指標やルールの共有が必要です。そうでなければ、水掛け論に陥りがちだからです。柴沼さんによれば「価値観と価値観の議論はできない」となります。価値観ではなく、同じ土俵で議論をしなければなりません。
 「事業仕分け」も一つの議論の場です。事業仕分けに対して柴沼さんは 「評価方法のひとつであり、今までにない発想でインスピレーションを得ている」とおっしゃってました。これは意外でした。事業仕分けは各省庁側の人間には厳しいものと思っていたからです。それと同時に柴沼さんの発言には一貫性があるとも思いました。柴沼さんは繰り返し、「議論をするために目的、目標を具体化する必要がある」とおっしゃっていました。事業仕分けの目的は「一般人の常識で行政のムダをなくす」というものです。その目的の是非で争わず、その価値観を受け入れた上で議論に挑む柴沼さんには、評価制度に携わる者としての気概と可能性を感じました。
 事業仕分けも専門的観点の判断の欠如という弱点があるように、万能な評価手法というのは存在しません。それぞれの評価手法のメリット、デメリットを把握し、議論を深めていくことが大切だと思いました。

研究会3|議事メモ

第3回TARL評価ゼミ研究会
日時:2010年11月1日(月)19時-
場所:小金井アートスポット シャトー2F
内容:
1)前回の議論の振り返り
2)事例報告 静岡県立美術館の評価
3)ディスカッション


以下は、ディスカッションの話題を中心にまとめています。

■ 事例報告を聞いて
・ どこまで、誰が評価の作業をするのか。投入できる資源と目標を設定しないと「ないものねだりのスパイラル」に陥るのではないか。再現のない天井を追い求めるようになる。
・ 「具体的に記述しろ」という発言(じゃあ、どこまで具体化すればいいのか)。
・ 誰か評価の材料を調査し、まとめているのか(学芸員では展覧会の仕事との兼ね合いが難しくなるのではないか)。
・ 客観的に自分を見つめ直すこと(日記を書くような)で意識改革(意識化)をできるのではないか。
・ あまり重箱の隅をつつくようなことばかりしていても、現場には届かなくなってしまう。ある種の緊張感をもったものにしなければ意味がない。

■ アートプロジェクトと美術館
・ たとえば美術館のアクセスが問題にあがったときにどのように考えるか(ハード面はどうにもならない問題なのでは)。
・ アートプロジェクトは地域との関係が評価軸にあがる。そこでの関係をつくりすぎて膠着することの問い直しを誰が、どのように検証できるか。

■ 評価の視点
・ 定性/定量と量的/質的という視点がある。学芸員のコメントは定性的だが、(評価の)考え方は量的なのではないか。数値の代わりに言葉なのだけれど、根本的な考え方は物語的ではない(処理が数的になってしまう)。
・ 年度ごとの目標で活動の歴史とあわせて変化されていくのはどうか(⇔ずっと共通の評価軸)。評価対象の活動段階にあわせたもの。

■ 評価と制度
・ ポジティブな評価とは何か。感覚的にでも展覧会が面白くなっているかが大事になってくるのではないか。評価に意味はあるが、想定の範囲内は越えないのではないか。
・ 評価では「制度」を考えなければならないのではないか。美術館のオルタナティブとしてのアートプロジェクトが出てきたとしたら、既存の制度の枠組みで捉えることはできないのではないか(「アートプロジェクトと評価」は、もともと矛盾をはらんでいる問題設定なのではないか)。
・ 近年の評価圧力はアートプロジェクトが「制度」の枠内に収められていくような流れなのではないか。
・ 評価の定義を「制度内の評価」とするのか、「制度未満まで評価」(自由で不確実なもの)とすることができるのか。後者へ対応することができるのか。
・ たとえば制度と評価が対応しているとすれば、評価は制度内のもの、未来のものは内部のマーケティングとしてしまうこともできる。「評価」という言葉は相応しくないのではないか。
・ 制度を前提としない「評価」では、そもそも評価を求められていないのではないか。

■ 評価の「外堀」と「内堀」
・ アートプロジェクトは行政主導が多い。そうすると目的とする地域づくりの評価になりがち(そもそも評価はそうなのではないか)。アーティストの自由な活動が目的ではない。
・ 運営側やアーティストの本当にやりたいことは何なのかを評価という言葉ですくいあげることができたら。アーティストの活動を評価するのか。批評と評価はどうするのか。
・ 漠然と違う方法があるのではないかと思っているが、別の方法が具体的には見えてこない。
・ 本当に新しい手法が出てきたときに、まずわれわれがどのように対峙できるのか。
・ 評価できないゾーンを報告しないゾーンにいれてしまうか、徹底的に記述してしまうか。
・ 大きな変化が見えてきたら(見える状態にパッケージ化されたならば)外に出すようにする。
・ (がっちり見えるようにして説明を行なう)外堀と(内側の判断で公開を制御する)内堀があるのではないか。内堀をつくらなければ実験的なアーティストの活動を後押しできない。
・ 成長を後押しする評価は外に公開する必要はないかもしれない。内部的に説明できる評価は「2、3人しか来ていないが、重要なこと」を説明できるかどうか。
・ 外堀で社会性をもたせつつと内堀もしっかりやり、両面をあわせて、社会的に認められるようなものを提示していく必要がある。
・ 内堀は批評の問題とクロスオーバーしてくる。内堀から外堀へ向かっていくようなキャベツのようなモデル。保育器から出た瞬間に面白くなくなるかもしれないけど、次を育てる外の壁になってくれる。
・ プロジェクトが外へ説明する上手さをもつだけでなく、自分たちが面白いことをやっているかどうかの「批評性」をもちつづけられるかどうか。
・ どんなものでも時間が経つと外側に追いやられていくのではないか。常に若い芽が出続ける準備しかできないのではないか。
・ プロジェクトとして仕組むときに若い芽を組み込んでいくことを意識的に進めていかなければならない。
・ これからはここで議論してきた言葉を細かく検証して積み上げていくことが必要になってくるのではないか。
・ 具体的な例に即して検証してみたい。たとえば当事者に「なぜこれが批評性があるのか」と丁寧に聞いてみたい。でも「言葉にならない」「分からないからやっているんだ」ということになってしまうのではないか。
・ 作家はそれでいいが、意欲的なアートプロジェクトを行っている人もそうなってしまう。言葉にできたときのつまらなさ。言葉になったときに外側になってしまっている、とも考えられる。
・ レイヤーが沢山あって、コアな言葉にならないところがあり、一番外側に誰にでも説明できるような言葉がある。キャベツのコアを生み出すような循環性、自己生成性。
・ 評価には説明責任だけでなく、汎用性もあったが、おそらくコアな部分は他には活かしようがないところ。そこを取り出してどうなるのか。
・ 取り出して「これが価値があるんだ」といってもらえることで、それを価値と言っていいんだと言えるようになる。
・ コアなところを取り出すことは「そうやればいいんだ」ではなく、次のアイディアを刺激するようなもの。汎用性のあるモチベーション、起動するスイッチとして取り出す(使えるツールではなく)。道具ではなく、態度。
・ 「こういうものもあるんだ」と実験的な空気が飛び火していく。それがなければくじけてしまう人を救うようなものになっていくだろう。

■ 現行のプロジェクトの評価(テラトテラを事例に)
・ 目標の達成の精度を厳密に吟味していく、目標を疑うことをやってみてはどうか。
・ でも、ざっくりした目標だから走れているところがあるのではないか。その辺を精緻化していくことで走れなくなってしまう。全部を決めてしまうと、それしかできなくなる危険性がある。
・ この規模でのプロジェクトには評価は必要ないのではないか。プロジェクトとしてまわっていく機能としての評価が必要なのではないか、という前提がテラトテラの評価にはある。

■ アートプロジェクトとマネジメント
・ すべてのアートプロジェクトの問題は、「アート」以前の問題なのではないか。
・ そっちに引っ張られて「アート」がおざなりになる問題があるのではないか。アート的に面白くない、は、そっちにひっぱられてしまうため。でも、いままでのアートプロジェクトは、そこを評価してきたのではないか。
・ でも、「アート」以前という枠組みを設定するようなモデルを考えてもいいかは分からない。
・ 「アート」以前で四苦八苦していることが常識化しているアートプロジェクトの状態で、そこを指摘してはどうなのだろうか。
・ アートプロジェクトにおいてアートは赤ん坊のようだ。常に慣れない。
・ 開き直りが通じなくなってきているのが、今の状態なのではないか。 このままでは同じ問題を指摘して終わってしまうのではないか。
・ マネジメントの問題を指摘してもしょうがない。コンサル的なことをしてくのではないか。
・ 問題を話す場所を提供する。家族カウンセリングと似ている。第3者がいると話ができること。

■ 批評/評価/カウンセリング
・ アートプロジェクトの評価的なものはカウンセリング、コンサル的なものなのではないか。
・ 常に流動的な組織状態で動かなければならないため、カウンセリング機能が必要なのではないか。でも、かならず崩壊するわけではない。
・ サポーターなど入ったばっかりの人が意見を言うことができる。長く活動している人が発言しやすくなってしまう。
・ 面白さを安心して追求していける状況をつくることができるか。
・ 外堀的に説明できるものがあり、カウンセリングが機能すればいいのか。
・ 全部外堀にしようとするからつまらなくなるということは(研究会で)共有できた。

■ アートプロジェクトの評価者とは
・ 内堀の面白さを分かりつつ、外堀をやるポジションが必要なのではないか。
・ アートプロジェクトの相談役=カウンセラー?が派遣されていく組織。
・ カウンセラーの役割は何かをアドバイスするのではなく「問題を聞くこと」か。
・ でも、やった場合とやらなかった場合の比較ができない(一般的なカウンセリングでの治ったとは= 日常生活に紛れ込ませることができるレベルまで→ぎりぎりアートって言えるレベル?)
・ プロジェクトを評価するということでは、人とのカウンセリングを行なうことで達成できるのか。
・ 組織が続いていくために評価すること、社会的な意義を説明していくことは違って考えていく必要。
・ ドラマトゥルク=一緒に作品をつくっていく側に入っていく職。
 http://sampleb.exblog.jp/12392452/
 http://www.nettam.jp/blog/2010/06/post-41/
・ たとえば「プロジェクト・ドラマトゥルク」がいることで成立することがあるのではないか。
・ 作品をつくるほうと説明するほうが共有するものがない状況で、分離し、対立してしまう状況があるのではないか。
・ 内堀を共有しながら、あえて外堀へやる人や、内堀を深めていく人とひとりでできないところを分けてしまうのがいいのではないか。
・ 最初にやった人はひとりで内堀と外堀を身体的にやっていた。その重要性が示されたなかで、それをモデルや方法としてやろうとしたことは難しい。
・ カウンセラーよりも深く作品に入っていく方向なのではないか。
・ 内と外をつなぐ人がいないと、内で戦い切れないということがあるのではないか。
・ 意図的に2つの役割を分けて推進していくことが必要なのか。
・ 完全に分けていくモデルは必須ではないが、必要とされているのではないか。
・ ドラマトゥルクってどうすれば育成できるのか。文芸プロフェッショナルか。
・ もし、組織論的なことなのであれば、「安上がりな組織コンサルがいない」ということが問題なのか。
・ ドラマトゥルクは目新しくないと感じるのは、展覧会ならばメインとサブのキュレーターがあるから。
・ でも、メインとサブではないか。別府のプロデューサーとディレクターの在り方はどうか。
・ 評価は第3者ではなく「社会とつなぐ役割」というのは新しい視点かもしれない。
・ 行政でやると固い評価になってしまうことが問題なのではないか。
・ いまの日本では行政との間を上手く渡っていく人が大事になるのではないか。民間では比較的小さな活動も見ていてくれる。
・ 行政では、対個人でやりにくいのかも。けっきょく個人的な関係をつくっておくことが大事になるのではないか。民間ではそれが見えやすいのかも。
・ 小規模と大規模でやり方は変えたほうがいいのかもしれない。

■ 評価の傘
・ 片山さん、プログラム評価の話しをしていたけれど、東京アートポイント計画はそれでいける。テラトテラの評価を個別でしなくともいいのではないか。その点、AAFは上手い。
・ 小さいプロジェクトは、いくつかのプロジェクトをまとめて、おおまとめで評価をしていくのはどうか(日本中がアートポイントで)。数が集まれば、数値として力をもつ。
・ 勝手に想定してやることは可能なのか。アートポイントやAAFという傘以外に、どんな傘を設定すればいいのか。エリア、地域で区切るか。
・ 大きな傘をどのように設定するのか。たとえば日本全体でどんな成果があって、どんな社会的なインパクトにあったなど。
・ 組合ができてしまうと、そこの利益を守ることになってしまう。少なくともアートプロジェクトが増えすぎだよね、とは言えなくなる。
・ 組織化を嫌がるのではないか。デメリットがあるのではないか。
・ アートNPOフォーラムに自分たちで寄付の基金をつくった団体があった。評価を自分たちの手に取り戻すようでよかった。制度と評価がくっついているのであれば、制度を変えていくほうに動いた。
・ みんなが行政に説明をしていくよりは、対象が多様化していいと思う。
・ 傘をつくることのメリットとは何になるのか。「面白さ」を代わりに言ってくれる人になるのか。ロビー活動はしやすくなるのではないか。
・ AAFの検証会もピア・カウンセリングに近くなるのではないか。とにかく、言いたいのではないか。
・ 傘も圧力団体ではなくて、病院のようになってしまうか。アートプロジェクトの病院。駆け込み寺。
・ 公開カウンセリングや定期健診を行なうのかどうか。

■ アートプロジェクトとカウンセリング
・ アートプロジェクトのカウンセリングの専門性とは何か。
・ 話したいだけなのか、何かを言ってほしいのか。「あなただけのプロジェクトの問題じゃない」と言うことの意義。他のプロジェクトがよく見えるらしい。
・ AAFは公開ピア・カウンセリングになっているのではないか。アートポイントの公開ピア・カウンセリングをすればいいのではないか。
・ 「みんな同じ問題を抱えている」という問題を共有する議論だけでは、次のステップで何をするのか、は見えてこない。
・ 予想外の状況が面白いけれど、予想外の状況でしかないのは大変。ベースがあったうえで、予想外の状況が生まれてくるのはいいのだけど。
・ イノベーションが生まれる前提が共有される前に、駄目になってしまう。