レポート|第3回「企業メセナの評価」

ゼミ生/石田佑佳

アサヒビール芸術文化財団の加藤種男さんを講師にお迎えした第3回評価ゼミ。ところどころにユーモアを交え、穏やかな口調で話されていた加藤さんの姿が印象的なゼミとなりました。アサヒ・アート・フェスティバルに関わる様々なアートプロジェクトの例を、加藤さんご自身が撮影した写真の数々と共に紹介していただき、目にも刺激的なレクチャーでした。





Ⅰ.加藤さんのお話の内容

0.イントロ
結局は何を達成したいのか?それを考える必要がある。評価する際には、達成したいことが思っていた通り実現できているかを検証する。

しかし、アートプロジェクトでは、期待していたことが実現しなくとも予想外の事柄が実現する。ここに価値があり、重要となってくる。したがって、評価ではこれをうまくすくい上げなければならない。予想外のことなので、事前に設定した基準にあてはめることが難しくなるが、その事実こそが新たな指標になり得る。つまり、無理にでも評価基準にあてはめなくてはならないことが起こった、ということを成功の要因とするのである。


1.アサヒ・アート・フェスティバル2010
<事例紹介>
① 岩見沢アートプロジェクト「ZAWORLDⅡ」(北海道岩見沢市)
中心市街地活性化事業の助成金を得るなど、地元から厚い信頼を得ている。今後、地元の百餅祭りやNPOとの連携による展開に期待。
http://www.artholiday.org/

② ”生きる”博覧会2010(宮城県本吉郡南三陸町、大崎市)
それぞれの家の物語を丁寧に聞き出すことで、自己アイデンティティを確認。ご近所さん同士のつながりを生み出すきかっけになるなど、コミュニティ再生の可能性を開いている。
http://www.envisi.org/

③ 淡路島アートフェスティバル2010(兵庫県淡路島)
廃校をリノベーションしたノマド村を恒常的拠点とし、全国からお客さんが来る。地元の理解と応援が確立され、海外とのパイプができている。
http://awajishima-art-center.jp/

④「甑島で、つくる。」KOSHIKI ART EXHIBITION 2010(鹿児島県薩摩川内市)
様々な資源が眠る宝庫。年を経るにつれて、既存のコミュニティを越えたコミュニケーションが発生している。
http://koshikiart.chesuto.jp/


2.アサヒ・アート・フェスティバルとは何か
新しい市民社会をつくるプロセスとして、アートによるコミュニティの再生もしくは新しいコミュニティの創設を目指している。

田舎の人ほど「ウチには何もないよ」と言うが、気付いてないだけで資源はある。クリエイティブなセンスをもった人達の力によって、それらを発掘し活かしていきたい。何の目的も持たないアーティストの創造性が、コミュニティづくりのヒントになるのではないか。だから、アーティストには企業の基準を超えた、意表を突くような表現活動をしてほしい。他方、伝統的な物が既に未知なるものとなっている今日において、伝統的な物の中にも新しい価値があるかもしれない。どれだけ多くの資源を発掘し、ただ保存するだけなく、生活の中に生かしていくかが大切である。

外からアーティストが入るとき、勝手に地元の人達が理解できるレベルを決めてはいけない。地域の人々に理解してもらいたいと思うのであれば、プロデュース側も分からないくらいのインパクトがなければならない。そのインパクトによって、ものの見方が変わる人がいる。そこからさらに動きが出てくることを期待。

<事例紹介>
○すみだ川アートプロジェクト:wah「すみだ川のおもしろい」展
人のアイディアを実現できるという点で、自分のアイディアを自分で実現したがるというアーティスト観を超えている。
http://www.asahibeer.co.jp/csr/soc/activity.html


3.最後に
アサヒ・アート・フェスティバルでは、評価の定まっているものではなく、次の二つの価値基準に沿ったものを対象としている。
(1)未知なるもの
(2)古くて今日見向きもされないが、本当は面白いものの再生

アートプロジェクトは、最初は課題を考える人達のIssue Communityでいいのだが、最終的には地域全体を動かすRegional Communityになってほしい。





4.質疑応答
※一問一答ではなく、加藤さんが答えた内容をいくつかの項にまとめました

評価する点について
来場者数はもちろん多い方が嬉しいが、もっと大事なのは参加より「参画」する人の数。
ただ見に来るだけでなく、どれだけ多くの人が参画してくれるか。例えば地域の人とつなげてくれる人、料理をつくってくれる人等、手伝ってくれる人がどれだけいたかを重視している。
だから、できるだけ開かれたプロジェクトを目指している。地域の人が「こうやりたい」と言ったら変えられる、フレキシブルなプロジェクトであることが重要。変わっていくことで、事前に設定した指標を超えることができる。

組織に対する説明とフィードバックについて
直接現地に行って、根掘り葉掘り話を聞き、報告書を作成する。助成に関しては、すべて第3者の検証を受け、目的通りうまくいっているかプログラム評価をしてもらっている。第3者評価を受けて、自ら再検証する。社内理解を得るためには、会社の原理・原則に立ち返って説明をする。

アートプロジェクトの評価と方法について
個別アート評価・個々の作品論には足をすくわれそうになる。個々の作品論を越えなければ、プロジェクト評価はできない。プロデューサーは、人の言う事を調整して、皆がやりたいことをできる、そんな場面をつくれる人であるべき。多数決ではなく、「寄り合い」のような、議論による合意形成が重要。


Ⅱ.感想

個々のアート作品にこだわらず、プロジェクトを行っている地域で何が起こったのか、どんな動きが起こったのかを重視されていることが印象的でした。プロデューサーのマネジメント、アーティストの制作、市民グループのまちづくり等々、切り離すことのできない要素が、それぞれのアートプロジェクトにあると思います。にもかかわらず、特定の一点だけを取り上げて評価すると、プロジェクト全体での効果・改善点がうまく浮かび上がらず、失敗するのかなと思いました。
 加藤さんをはじめとするアサヒ・ビールの方々が、助成したプログラムに関してはできるだけ現地に足を運び、丁寧に話を聞くという姿勢に敬意を表します。実際その場所に行かなければ分からないこともたくさんあるのがアートプロジェクトの特徴だと思うので、評価においても現地に行くという行為は重視されるべきだと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿