レポート|第2回「助成財団の評価」

神野裕史(ラボ生)

セゾン文化財団の片山正夫さんを迎えての評価ゼミ第二回。夏の暑さもあってか(?)、和やかでざっくばらんな雰囲気の中、進められました。あくまで足取りは軽やかでありながら、評価の本質に迫る気付きでいっぱいの2時間でしたので、皆さんともこのブログという場をお借りして、是非、共有させていただければと思います。



I:片山さんのお話の内容

評価とは?
助成財団が評価するのは、芸術ではなく芸術のプログラム(プロジェクト、助成行為)である。評価とは広い意味を持つが、ここではシステマティックな評価を意味する。

評価の目的とは?
助成財団が評価を行う目的は、①「改善するため」と②「説明するため」。

①「改善するため」
非営利事業であり、投資の成果が金銭的なリターンという形で表れない。そのため積極的に評価を行わないと次回の助成活動を改善することが出来ない。

② 「説明するため」
経営者である理事、また一般社会を代表する評議員に対しての説明責任を果たさなければならない。また、公益法人として税制優遇を受けており、直接的には主務官庁(文化庁→内閣府)に、また広くは社会に対して説明を行う必要がある。

助成財団にとって評価の在り方は?
助成財団が社会に果たす役割を完遂できるよう、評価も適した形で実施する。

① 助成財団とは?
政府とは異なる「公」の担い手である。政府は企業や市民からの税が支出のもとであり、様々な利害関係者皆の納得を得なければならない。予算の分配も様々な分野(福祉、教育etc)との兼ね合いで行われる。助成財団は資金源が別なので、新しいことを世に問うていきやすい上、芸術支援を目的とする助成財団はその資源全てをその目的に駆使することが可能である。
 例えば、セゾン文化財団は個人の財産を財団化し、その資金運用益を助成に活用している。助成金額自体は行政の文化政策予算等に比べれば小さいが、その助成額の何倍の効果が生まれると考えられる。マイケル・ポーターは、助成にはその助成金の金額分の効果だけでなく、①他の助成主体に「この助成先は優良」というメッセージを出すシグナル効果、②ネットワークを構築による、ヒトと知識の側面からの支援効果、③セクター全体の知識・技術水準を向上させる効果もあると述べている。

② 助成財団の目的達成に適った評価とは?

a) 助成活動を行う過程で以下のような評価の仕組みが導入された。

i)Goal Free Evaluation
作品単品ではなくアーティスト個人への支援を行う際に、支援することが被支援者の可能性を狭めては本末転倒である。①良い作品を生み出す、②活動のグレードアップがされるのであれば、後は個別のアーティストの問題であり、彼ら自身が向かう方向を決めるべきだ。そのため、評価は緩い枠組みで実施し、すぐには結果を求めず、結論を出さない。

ii) エピソード評価
客観的評価だけでは心がささくれてくる。ストーリーみたいなものがないと評価の聞き手の心が動かない。良い助成プログラムは良いエピソードにあふれているので、そのエピソードも評価の際に考慮に入れる。


b) 以下のような点に注意している。

i)評価のタイミング
事前・期中・事後と評価を行えるタイミングはさまざまである。事後評価もプログラム直後なのか、追跡調査なのかによって性質が異なる。

ii)評価の客観性
主観と客観は二律背反ではない。一枚のアンケートは主観的だが、枚数を集めれば客観的になる。
評価の客観性を担保するのは比較対象性。比較可能なのは「よく似た他人か過去の自分」。類似のプロジェクトがあるとは限らないので、助成前後での比較は重要である。

iii)新規性
皆がプログラムの結果に納得するものが良いものとは限らない。皆が賛成する安全パイは果たして助成財団が助成する必要がないのかもしれない


c) 評価を積み重ねた経験から得た学び

i)事後評価の指標は予め決めておくこと
ii)評価者を評価指標の設定時から関与させること
ⅲ)評価期間に幅を持たせておくこと
※ 評価期間が短いと過去の自分と評価できない




II. 感想

芸術分野でこそありませんが、財団法人で働く職員のひとりとして、お話を聞いてとても興味深く感じました。片山さんは謙遜も含めて、「ノルマがないので安易に流れることも」と仰っていましたが、収益で測られないからこその大変さもあるのが、財団という世界だと思います。
 財団2年目の青二才が言うのも失礼な話ですが、組織運営上、お金が入ることよりも出ていくことに厳しいのは当たり前。当然、支出に対しては成果が期待されます。お金を出すからには、その結果がどうだったのかは少なくとも経営陣に(自主財源以外の財源があるのであれば出資元にも)説明しなければならないのは営利企業と変わりません。
 そして、この財団にとって経営陣に当たる方々(理事・評議員)ですが、各界の著名人が務めることが多いかと思います。広い見識と知見をもちつつも現場には必ずしも詳しくない方々です。そのような方々にどう事業の意義や成果を伝えるかが財団職員の手腕の見せ所であり、難所のひとつなのでしょう。
 評価という手法は彼らとのコミュニケーションを円滑にする便利なツールだなと感じました。評価と聞くと、評価のアウトプットのひとつである評価報告書を想像してしまっていましたが、事業の開始前から始まっているというお話を聞いて目からうろこが落ちる思いでした。プログラムの設計時から評価者を参加させること(例:彼らに評価の仕組みを提案し、評価指標の合意をとりつけるなど)で、最終的な成果の評価に対して納得も得やすくなるのだと、自分の仕事と照らし合わせて腑に落ちました。もちろん評価は客観性が担保されていなければならないのでしょうが、その実施と活用は戦略的に行えるものなのですね!

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